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血統

ソウルスターリングの活躍が日本にもたらしたもの

目次

社台RH久しぶりの「怪物」

 社台サラブレッドクラブは2005年有馬記念、圧倒的1番人気に支持されたディープインパクトにそれまではやったことがない先行策でルメール騎手がハーツクライを勝たせた。それ以降はコンスタントにGⅠでも勝利挙げていたが「怪物」と言えるほど話題性のある馬はいなかったように思える。2014年にイスラボニータが皐月賞を制覇した年に誕生したのが後のソウルスターリングとなる「スタセリタの14」であった。2009年仏オークス(GⅠ・芝2,100m)、2009年ヴォルメイユ賞(GⅠ・芝2,400m)、2009年サンタラリ賞(GⅠ・芝2,000m)などを含む18戦10勝を挙げた牝馬である。

 2011年アメリカ、ブリーダーズカップフィリー&メアターフ(GⅠ・芝2,200m)に出走すると1番人気に支持された。勝負所まで好位のインにつけ4番手辺りでレースを進めるが、4コーナーから一気に前が塞がると失速。外に持ち出すこともなかったが、そもそも手応えは残っておらず、10着と大敗。このレースが引退レースとなった。このレースの翌日に社台ファーム代表の吉田照哉氏が目を付け購入に至った。実はこのレースから日本に繁殖牝馬として迎えられるケースも少なくない。

 2015年にBCフィリー&メアターフ(GⅠ)を制したステファニーキトゥンはレース翌日に吉田勝巳氏に落札されノーザンファームで繁殖生活を行い、2017年にはカトゥルスフェリス(父:ディープインパクト)が誕生した。2019年勝ち馬イリデッサは2020年も現役を続行する予定であったが、馬房内で腱に重傷を負い、日本での繁殖入りが決まった。

 そんな馬たちに引けを取らないスタセリタは引退直後に眼に負傷していたことが判明。治療に専念してから日本へ輸出される予定であったが、Smart Strike産駒を受胎し出産。その後、Frankelを受胎したまま日本入りを果たした。「Frankel産駒は果たして日本で成功するのか?」注目はそこに集まった。

Frankel産駒の代表として

 社台サラブレッドクラブで募集された「スタセリタの14」は「ソウルスターリング」と名付けられた。デビューに選ばれたのは2016年メイクデビュー札幌、芝1,800mであった。スタートは五分に出ると、向こう正面で捲っていった馬にも決して動じることなく、4コーナーへ入る。内のアドマイヤマンバイが抜け出しを図ったところに1発、2発とムチを入れられると、着差はクビ差ながらしっかり差し切る勝負根性を見せ、単勝1.7倍の指示に応える形で新馬勝ちを果たす。「想像以上に強い」「単勝1.7倍ほどの馬ではない」「相手に恵まれた」などと賛否両論であったが、調教ではチェッキーノ(2016年フローラステークス1着、2016年オークス2着)に先着していたなど素質は感じさせた。

 2戦目に選ばれたのはアイビーステークス(OP・芝1,800m)。単勝2.5倍、2番人気に支持された。このときの1番人気(単勝2.4倍)はメイクデビュー小倉で馬なり完勝を果たしたペルシアンナイト(父:ハービンジャー)であった。やや馬場が荒れた中、緩やかなペースで直線に入ると、残り300mあたりからルメール騎手が促すと一気に加速。右ムチを入れられるとさらに加速し、牡馬相手に完勝したのであった。いよいよGⅠへ向かう体制は整った。

 Frankel産駒は日本で数多く走っているかというともちろんそうではない。日本に種牡馬としている訳ではないし、海外にいる牝馬につけて牝馬ごと輸入するか、若駒を輸入するしかない。ソウルスターリングが活躍してからのFrankel産駒としてはモズアスコット(2018年安田記念1着、2020年フェブラリーステークス1着)、タニノフランケル(2019年中山金杯3着)などである。なかでもモズアスコットは芝・ダート両GⅠを制しており種牡馬としての可能性を広げることが出来た。ここまで言うとさすがに言い過ぎかもしれないが「ソウルスターリングなしでは…(以下略)」。言い過ぎてしまった。

レベルの高い2014年産

 2016年阪神ジュベナイルフィリーズ。1枠2番と絶好枠に入った。レースは明らかなスローペース。逃げ馬が直線入り口でも垂れることなく、内回りコースとの合流部分に入ってもまだ粘っている。その内から楽な手ごたえでスルスルと抜け出すと、あっさりと先頭に立ち、後続を振り切り見事優勝を飾る。このレースでとんでもない末脚で外から伸びてきたのがリスグラシュー、好位で粘り続けたのが2017年桜花賞馬レーヌミノルであった。

 2017年に入り、いよいよ「牝馬三冠馬の誕生」に期待が集まる。2歳女王の始動戦に選ばれたのはチューリップ賞(GⅢ:2020年現在はGⅡ)。単勝1.5倍の圧倒的な支持に応え、直線では楽な手ごたえで抜け出すと、後続に影も踏ませず見事桜花賞への切符を手にする。多頭数の競馬で外枠。3コーナーも外を回る展開になり直線へ入るとレーヌミノルの半馬身後ろからムチを振るい、スパートをかけるも最後まで差すことはできず、逆に内からリスグラシューにも差され、3着と初めて敗戦する。やや重の馬場も味方してくれなかったところはある。陣営は「オークスを使います」と、初めての芝2,400mを走らせる選択をしたのであった。

 東京芝2,400mでは絶好の1枠に入る(さすがにJRAの悪意すら感じた)。もちろんレースの流れはスローペース。4コーナーまで特に何もなくしっかりと溜まった末脚は直線で疑いようもなく爆発。モズカッチャン、ディアドラらの追撃をおさえ、見事オークス馬となった。

 2014年産の牝馬は「凄まじい」。この言葉に尽きると思っている。リスグラシューはのちに2017年秋華賞2着、2018年ヴィクトリアマイル2着、2018年エリザベス女王杯1着、2019年には宝塚記念・有馬記念のグランプリ制覇、コックスプレート1着など最強牝馬に成長した。モズカッチャンは2017年エリザベス女王杯を3歳ながら制覇した。アエロリットは2018年毎日王冠で牡馬相手に逃げ切り勝ち。その後も重賞で好走した。ディアドラは2017年秋華賞を制し、2019年にはイギリスのGⅠ、ナッソーステークスを勝利。この世代に自分の出資馬がいなくて本当に良かったとすら思えた。

繁殖牝馬として

 2017年オークスのあとは自慢の瞬発力は発揮することが出来ず、脚質も先行に変わり、いかに粘ることが出来るか…となってしまった。2018年クイーンステークス(GⅢ)、札幌コースはデビュー戦を走った思い出の地でもある(馬はそれを感じるのかどうか知らないが)。内枠を生かし4コーナーでは先頭に躍り出ると、最後は得意の決め脚勝負!しかし伸びない。以前は負けなかった末脚勝負で同い年のディアドラにあっさりと差されてしまった。申し訳ないが「最強牝馬ソウルスターリングが完全に終わりを迎えた瞬間」であった。2019年に入ると脚部不安にも悩まされ、引退レースに選ばれたのは2020年中山記念であった。

 先行馬としてマルターズアポジーの番手での競馬を進める。4コーナーに入っても前をかわせない。外からダノンキングリーが来た。もちろん敵わない。ラッキーライラックがデカい馬体で2着に入り込む。インディチャンプは斤量がありすぎて伸びない。ソウルスターリングは前で必死に粘った。久しぶりの3着だった。ちょっと泣いてしまった。その直後「引退を撤回し日経賞に向かいます」。私の涙は一瞬で乾いた。そして2020年3月28日土曜日日経賞の日を迎えた。もちろんもう切れ味も、スタミナも全くない。だけど4コーナーではちょっとだけ先頭だった。「ありがとう」その言葉しか浮かばなかった。

 ソウルスターリングにはサンデーサイレンスが入っていないためロードカナロア、ハーツクライも配合相手に選ぶことが出来る。ノヴェリストはもちろんMonsunのクロスが2×3となってしまうためつけられないし、重戦車みたいな馬になってしまいそう。デインヒル3×4となるハービンジャーも面白みはあるが、あえてクロスを生じさせる必要はない。キズナ、サトノダイヤモンドなどディープインパクト後継種牡馬も面白い。産駒の可能性は無限大である。最後に…

ソウルスターリング!ありがとう!お母さんになっても頑張ってね!

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